海の底
文庫では本編で軽く触れられているだけであった前夜譚が巻末に追加収録されている。
有川浩氏のあとがきによると、この作品を作るに当たっては、テーブルトークロールプレイングゲーム(TRPG)的な手法を使ったと明かされている。すなわち、主要な登場する組織役を決め、どのように行動するかを宣言しながら「遊んで?」いくうちに、自衛隊・警察・米軍・政府等々の動きを決めていったという。
この様な手法は、一時期流行った「TRPGリプレイ」といったジャンルの小説では多く見られたが、大きく違うのは「リプレイ」は、ゲームのシステムが確立されていて、ボードマスターというシナリオを作り、かつプレイヤーの思わぬ行動をシナリオに上手く取り込みながら話を紡いでいくTRPGのゲームを基にしてノベライズ化されているのに対し、本作は「基となるゲームが存在しない」(少なくとも公表されていない)というところにある。顔を合わせてか、スカイプか、チャットかなどは明らかでないが、有川氏がその場でゲームのルールを作っていったようでもあり、手法としては斬新である。
前作「空の中」に続いて、「少年少女の出るSFはライトノベル」ということで、取り上げることとしたが、本作では少年少女の扱いはさらに現実に近い物になっている。つまり、「子どもは無力」であり、ほとんど一貫して「無力で庇護される」立場なのだ。
横須賀米軍基地で開かれている桜祭りの最中に、巨大なザリガニ状の食人生物レガリスが多量に上陸。前夜に艦内で「一大事件」を起こしペナルティで潜水艦「きりしお」に残っていた夏木大和と冬原春臣は、避難し損なった少年少女とともに「きりしお」艦内に立てこもることになる。艦内では、子ども達の人間関係に起因する問題が続発し‥‥‥。
「きりしお」艦内を縦糸に、米軍の介入無しに事件の解決に奔走する警察・自衛隊の苦悩を横糸にストーリーは紡がれる。有川氏のライトノベル作品での徴的の、「大人の方が主人公」とすることで、読み応えのある作品に仕上がっている。
広島県呉市には、実物の潜水艦を陸揚げして艦内も展示している「鉄のくじら館」という施設もある。横須賀市街の対レガリス戦こそSFXになるだろうが、「鉄のくじら館」を使った実写映画化も期待したい作品である。