絶句
この本の最初の単行本が出された1983年当時は、「ライトノベル」という分類がない時代であり、新井素子氏もデビュー雑誌から「SF作家」というカテゴリーであった。今で言うところの「ライトノベルス」に当たるレーベルは、少女向けのジュニア小説が「コバルト文庫」、少年向けのジュブナイルが「ソノラマ文庫」(朝日ソノラマ社の廃業により現在はない)という時代であり、SFが得意な早川書房のハヤカワ文庫や、作家の名前(たとえば、眉村卓氏など)で読みたい本を探すという時代であった。
高校生でデビューした新井素子氏は、独特の読みやすい文体(当時にしては)もあり、SFから、コバルト文庫でのジュニア小説やファンタジーにも進出し、一大ムーブメントを起こしていた。
「・・・・・絶句」は、それら種種雑多な小説の「要」となる作品である。つまり、ファンタ-ジーの世界に開いてしまう空間の歪みはこの作品で作られてしまったものの名残り、遠い未来を舞台とするライトSFの主人公は本作の主人公の遠い子孫だったり‥‥‥である。
という、単行本での後書きは、残念なことに今回の新装版には収録されていない。
ストーリーは、小説賞への応募作に追われている主人公「新井素子」(ややこしいが、この作品の主人公は作者本人なのだ)が、宇宙船のワープに巻き込まれ‥‥‥結果として「書いていた小説の特異能力(世界最強とか、動物と会話できる天才科学者とか、テレポーターとか、理想の奥さんとか)を持ったキャラクターが力を持ったまま現実世界に出てきてしまう」と言うことから始まる。
話は、広がっていき‥‥‥最終的には纏まるのだが、既述のように多くの作品の「種」を撒いての収束となる。
元々は、友人で読む為に書いていたとのことで、相当の長編だったものを、出版に当たって短くしている(例えば主人公を誘拐する「西谷」という人物が出るが、当初作では「東西南北揃っていた」という具合で‥‥‥作中4人に少なくとも4回主人公が誘拐される小説って‥‥‥)というもの。
ライトノベルの嚆矢とも言える小説なので、御一読を。